murmur

BL妄想ときどき外面。

現代の純文学(「コンビニ人間」)

コンビニ人間

コンビニ人間


・奇妙で奇抜
・独特の五感の描写
・不思議と読後感は悪くない


この奇妙さ、さすが「芥川賞」だなと。
決して直木賞ではない。ましてや本屋大賞なんてありえない。
これが「現代の純文学」だと言われたら、数秒沈黙して、なるほどと唸りそう。


主人公は世界に対してではなく、作られたこの「社会」に対しての「異物」なんだよな。同じ人間で、同じ女であることには変わりないのに、自分は「異物」であるという違和感。
周囲に同調しようとする理由が、苦しいからでも寂しいからでもなく、「そうでなければ色々と面倒だから」という、退廃的なように見えて一番合理的な一言に集約されるのが面白い。さらにその同調手段が「そのとき周囲にいる人間を模倣すること」というのがもっと面白い。服装も口調も怒りのポイントも、そうすることで相手が「私たち気が合うね」と同族意識を芽生えさせるなんて、至極当然のようでいて盲点だった。というか、これを「そうでなければ色々と面倒だから」という一点の理由のみで、平然とやってのける主人公、こわい。


全くシンパシーを感じられなかったはずの主人公の一人称が、感情の起伏がない代わりに鋭い五感の描写のおかげで、大して違和感なく入ってくるから不思議だ。作中で主人公が自分の体を「入れもの」のように捉え、摂取した水や食物、交わった人間によって変化するという描写が出てくるが、私自身が「主人公である彼女という入れもの」に入ったように、その音を聞き、その景色を見る中で、彼女には欠落している卑しい感情や自分勝手な理性を代わりに育んでいくよう。


奇妙だけど、難解ではない。特異だけど、理解できなくはない。この読後感は芥川にも似てるなと。